2010年 07月 04日
シモーネ、馴染む
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南阿佐ヶ谷の商店街に馴染むラテン系民族。微妙に許可済みの為顔出し。
「パパァ あの人たちエイゴ喋ってるね。」
大きな湯船の中で、まだあどけない少女が父親に言う。
ちがうっ、ちがうぞぉ。
お兄ちゃん達がしゃべっているのはね、 "いたりあご" って言うんだよ。
そう彼女に自分の気持を伝えたいが、なかなか口を開く勇気がわかない。僕はもどかしさを
抑えながら再びシモーネにこのパブリックスペースの解説を続ける。
「いいかシモーネ、確かにこの湯は熱いけれど、これを我慢しなくちゃいけない。
この熱さを我慢して平気な顔するのが江戸っ子の粋ってもんなんだ。」
その日、僕たちは南阿佐ヶ谷の銭湯にいた。
「コスケ!俺を銭湯に連れてってくれ!!」
そうシモーネが俺に嘆願する。しかしこの要求は自分にとってもハードルの高いものだった。
記憶にある限り、初のリアル銭湯である事は日本人の尊厳にかけてシモーネに悟られるわけにはいかない。
洗い場に設置された洗面器が"ケロリン"であることまでは想定内だった、しかしシャンプーと石鹸が設置されてないなんて。
スーパー銭湯と日帰り温泉に甘やかされて育った自分を痛烈に恥じる。あわてて番台で石鹸を購入。
昔は銭湯が町の社交場であったこと。大人たちが他人の子も構わず叱り、社会のルールと
マナーを教える場でもあったこと。
そんなことをシモーネに教えようと思ったが、面倒くさいのでやめる。
おもえばあの湯船の中で出会った少女に本当のことを伝えられなかったのも、いまは
失われてしまった"裸のお付き合い"に、やはり自分もいくらかの抵抗感を持っていたの
だろうか。
そんなセンチな俺の気持を知る由もなく、当のシモーネは先ほど自分が教えたことを忠実に守り、真っ赤な顔をして湯の熱さに耐えている。
しかしその辛さの中にも見て取れる喜びの感情。
そう、あこがれの"めぞん一刻"にも出てきた銭湯に、いま彼はいるのだから。
「シモーネ、熱いか?イタリア人にはまだ早いかもな。 気にすんなよ、そろそろ上がろう。」
・・・・・俺が限界だから。
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by emilia-bologna
| 2010-07-04 04:04
| イタリア人来日