「コスケ、今夜はどこかに出かけるのかい?」
シモーネと共にやってきた同居人のアントニオが声を掛けてくる。
「あぁ、中心街に出かけるつもりだよ。」
自分がそう答えると、ふいに彼らの表情が曇った。そしてアントニオは続ける。
「それはおかしいぞコスケ。今日はおまえの誕生日だろう?ゆかりから聞いて俺たちは知ってるんだ。」
「今日の夜はサプライズでお前の誕生日フェスタをするはずだ。」
サプライズでっておいおい、いきなりネタばらしてるよこの人。
ゆかりの手によって、すでに自分の夕方のスケジュールは押さえられてあると思った
のだろう。予想外の自分の返答に、いとも簡単にパニック状態に陥るイタリア軍兵士たち。
おもむろに携帯を取り出す。
彼らの指揮官、"ゆかり"に判断を仰ぐつもりだろう。ネタばらす前に電話すればいいのに・・・・
すっかり混乱しきった前線の戦況を後方陣地に報告する彼ら。しばらくするとその携帯を
渡される。
前線の兵士たちが、こうも易々と重要機密を漏らしてしまうとは思っていなかったに違いない。
電話口の向こうでは、やはり混乱しきった彼らの指揮官がいた。
「あ、こうすけあのなー・・・・・。」
「・・・・とりあえずあんた家で寝ときー。」
とりあえず寝ときーって、おいおい・・・・
完全に思考の停止している彼女、とにかくもうこうなったら仕方がない。
彼女の要請に従い、部屋の明かりを消して狸寝入りを決め込む。
狸寝入りが狸でなくなる頃、彼らの到着がサプライズである事などまるでかまいもしない
ような大きな音で、ドアのチャイムが鳴った。
自分がこのサプライズに気がついていることはあちらも承知のはずである。
暗い部屋の中でとるべき行動についてしばし考えをめぐらすが、ここはやはりあちらの出方を伺うしかない。
部屋のドア越し、遠慮がちに玄関の重い扉の開く音が聞こえる。
「はやくはやく!」 「しっ!静かに!!」
・・・・って、サプライズ続行するんですか??
早速サプライズパーティの準備に取りかかる彼ら。
ダイニングルームとキッチンの間を、自分に気づかれぬように慎重に動いているのが残念ながら手に取るように"はっきり"と聞こえてくる。
しかしここは彼らの心意気に答えるのが粋というものであろう。
自分も覚悟を決め再びベッドの中へ・・・・・入ろうとしたが、自分の誕生日であることを
アピールしながら陽気に皆の前に登場。
"だってどんな顔して待ってればいいかわからなかったんだもん。"
と言うのがその大きな理由だと言われている。
とにかく、このサプライズをサプライズでなくした事など、まるでなかったように上機嫌でパスタや魚料理の準備を粛々と進めているアントニオ。
女をナンパする事しか頭にないはずのシモーネは、わざわざパリッとアイロンのかかった
真っ白なシャツを身につける気合の入れよう。
フルーツを使って"KOSUKE"と書いた手作りのケーキを用意してくれた日本人の皆。
ブラッドオレンジをありがとう。
ロボットのおもちゃありがとう・・・・対象年齢七歳以下って・・・
プレゼントしてもらったボローニャでいちばん楽しい夜。
みんなホントにありがとう。
対象年齢七歳以下って・・・・
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